手数料稼ぎを制限しきれない金融機関

全国の郵便局で保険商品が不適切に販売された問題を受け、金融庁がかんぽ生命保険と日本郵便に対して業務停止命令及び業務改善命令を発表し、両社の経営陣が退任する等、金融業界内外に衝撃が走ったのは記憶に新しい。調査が明らかにした不適切販売の件数の膨大さと組織ぐるみの不正実態には驚きを禁じ得なかった。

ただ、これほどまでに大きな不正事案は稀だとしても、個人向け金融サービスを巡る金融機関の不適切販売行動は決して両社に限った話ではない。正確な説明がないままに高いリスクの金融商品を売りつけられたり、不必要に頻繁に商品を売買させられたり等、利用者が不利益を被り、苦情や訴訟沙汰に発展するケースも珍しくはない。

このような事案が発生する背景には、金融機関の「ノルマ営業」体質が存在するという見方がある。金融機関も営利企業であり、自らの経営目標を達成するために、その営業員に営業目標、いわゆる「ノルマ」を課し、それが顧客からより多くの手数料を稼ごうとする行動につながるという指摘である。

金融庁でも「顧客本位の業務運営」という掛け声のもと、このような金融機関の手数料稼ぎを制限しようとしてきたが、営利企業であるという金融機関の本質は変わりようがなく、理念や法令諸規則での縛りのみでは、なかなか完璧に制限することは困難であるように思われる。

「押し売り」金融機関からは距離を置くべきか

それでは、金融サービスを顧客として利用する個人は、金融機関の手数料稼ぎから逃れるため、金融機関の担当者からはなるべく距離を取るという判断が適切なのだろうか。極端な話、自分で必要な金融サービスを考え、さまざまなサービスや商品から自分にとって最適なものを選定し、オンラインで購入し、定期的に見直すということを全て独力で行うべきなのだろうか。

ある程度の金融知識があれば、将来に備えた資産形成のためには「長期・積立・分散」が重要であり、手数料が安いインデックス型投資信託を毎月積み立て形式で購入するという判断を自分で行うことができるかもしれない。

ただ、そのように金融知識を備えた人であっても、自らのライフイベントや金融市場の動向に合わせて保有金融商品を必要に応じて調整したり、保険や住宅ローンといった資産運用以外の金融機能の商品を適切に組み合わせたりするのは、決して容易ではない。

金融機関の手数料稼ぎを避けるためとはいえ、不十分な知識や情報に基づいて不適切な商品やサービスを利用したり、自分の生活や仕事の時間までも費やしてしまったりでは、元も子もない。重要なのは、金融機関がその営利性ゆえに手数料稼ぎを行なうインセンティブをどうしても持ってしまうことを認識したうえで、自分が利用する金融機関がどのような金融機関であるかを正確に理解し、適切な距離感をもって利用するという姿勢であろう。

ノルマ営業の背景にある金融機関の高コスト事業モデル

個人向けに金融サービスを提供する金融機関は数多く存在するが、その全てが同じように「ノルマ営業」体質を持っているわけではない。

例えば、上場している金融機関とそうでない金融機関では、利益拡大に対する株主からの要求圧力も異なり、それが結果として個々の営業員に課せられる収益目標の差として現れたりする。今回の日本郵政グループで発覚した保険商品の不適切販売も、同グループが株式上場を果たした後、株主の収益拡大に対する期待が強くあったことを指摘する意見もある。

ただ、銀行や証券会社など、従来の金融機関の多くにおいて、程度の差こそあれ、「ノルマ営業」が存在する背景には、上場・非上場の例よりも根深い、金融業界全体に広がる高コスト事業モデルという問題がある。

日本の金融機関は伝統的に自前主義を尊ぶカルチャーが存在し、営む事業に関連する業務やシステムは、なるべく全てを自前で対応するという傾向が強い。銀行が提供するATMがその良い例であり、それ自体が銀行の競争力や差別化にはならないにも関わらず、地方の駅やスーパーなどに異なる地銀が設置するATMが複数横並びになっている風景を思い起こしていただけるだろう。

このように何から何まで自行・自社で対応しようする事業モデルのため、事業効率が低くなり、事業運営コストが高止まりせざるを得ない。そのため、事業で利益を出そうとすると、そのコストを顧客に提供するサービスや商品に転嫁したり、より多くの手数料を稼ぐための販売行動に拍車がかかってしまったりすることになる。

また、この自前主義における別の側面の弊害として、自行・自社で対応すべきでない業務分野にリソースを配賦してしまうことにより、本来はより注力すべきである業務、例えば顧客向け提案やアフターフォロー、その教育・研修等にまで手が回らず、結果として提供するサービス水準が低くなってしまうこともあり得る。